そのむかし、まいとし夏になると、きまって八戸の鮫の海岸にすがたをあらわす一とうの大きなくじらがありました。
そのくじらがすがたをみせると鮫、白銀、湊、小中野という八戸の海岸は、海の色が銀色にかわるほどイワシのむれがおしよせ、大りょうがつづきました。
人びとは、このくじらは海の神様のお使いにちがいないと大事にしていました。
ある日のこと、そのくじらは、いよいよほんものの神様ではないかとしんじさせるようなことを、みんなの目の前でみせてくれました。
それは、おじいさんのりょうしが小船をあやつり、りょうをしていた時のことです。
急に空がくもったかとおもうと、強い風とともに大きな波がおしよせ、小船はひっくりかえってしまいました。
「大変だあ。じいさまが海に投げ出されたぞぉ。」
「それぇ。船を出せぇ。じいさまを助けろぉ。」
岸で見ていた人たちは、あわてて大声をあげ走りまわりましたが、船を出すにも波が高くどうにもなりませんでした。
その時です。小船のひっくりかえったあたりの水が、ドドーッと小山のようにもりあがったかとおもうと、体じゅうに貝やこんぶをびっしりつけた、せの黒いくじらがあらわれました。
(続く)
◆八戸市小学校国語教育研究会発行「ふるさとの昔っこ(改定版)」八戸地方の民話集より抜粋
by kazuya